大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和23年(ナ)1号 判決

主文

原告等の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負擔とする。

事実

原告等訴訟代理人の陳述した請求の趣旨は左の通りである。

「被告が昭和二十二年十二月一日原告等の訴願に對してした裁決はこれを取消す、昭和二十二年九月一日施行の石森町會議員選擧は無効であることを確認する、訴訟費用は被告の負擔とするとの判決を求める。」

またその請求の原因は左の通りである。

「原告等は昭和二十二年九月一日施行の宮城縣登米郡石森町會議員選擧における選擧人であるが、同年九月七日選擧管理委員會に對し右選擧が選擧の規定に違反する無効のもであることを理由として選擧の効力に關する異議を申立てたところ、同年十月二日右異議の申立は相立たない旨の決定を受け同日決定書の送達を受けたので、更に同年十月十二日被告委員會に訴願したところ、同年十二月一日訴願人等の申立は相立たない旨の裁決を受け同年同月十日裁決書の送達を受けた。

けれども、右選擧は左記の事由により選擧の規定に違反するものであつて全面的に無効のものである。即ち石森町議會は昭和二十二年七月二十一日石森町役場において議員定數二十二名のうち十八名が出席して同年度歳出歳入豫算案を審議するための繼續定例議會を開いたが、同議會において議員金野五郞は同人外議員十二名の署名した町長に對する辭職勸告提案理由書に基いて石森町長片倉正顯に對する辭職勸告案を緊急動議として提出し議題となつたところ、町長の一身上の問題であるから傍聽者のいないところで懇談することゝなつて一旦休憩し、石森町農業會事務所において協議をした結果、議決に先立つて右提案理由書を町長に示してその辯明を求めることゝなり、議長首〓忠作は議事を再會の上會議を七月二十四日に續行することゝして閉會した。右閉會直後議長は右提案理由書を町長に示し七月二十四日の繼續議會においてその辯明を求めることゝなつた旨告げた。次で石森町議會は同年七月二十四日繼續議會を開いたのであるが、前記町長に對する辭識勸告の提案理由書に對し町長片倉正顯は辭職の意思がない旨回答したので議長は直に閉會を宣したのである。しかるに町長片倉正顯は右七月二十一日の石森町議會は同町長に對し地方自治法第百七十八條の不信任の議決をしたものと曲解し、昭和二十二年七月三十日石森町議會に對して解散を命じ、これに基いて同町選擧管理委員會は同年八月十日同町會議員の選擧を同年九月一日行う旨を告示し、その結果右選擧は前記のように同年九月一日施行され同月二日開票によつて三瓶龍二外二十一名が新に同町會議員に當選した旨決定されたのである。

そもそも地方自治法第二十四條第一項には「普通地方公共團体の議会の議員及び長の選挙はこれを行うべき事由が生じたとき速かに行わなければならない」と規定しているから、町會議員の選擧は「これを行うべき事由が生じたとき」でなければ行うことができないのである。ところが本件では、前記のように七月二十一日の町議會において町長に對する辭職勸告案が一旦議題となつたのではあるが、結局會議を休憩してこれに關する懇談をしたに止り町長に對する不信任の議決をしたものではないのに拘らず、町長において不信任の議決があつたものと曲解し、これを理由として町議會の解散を命じたものであるから、右解散命令は當然無効のものである。従つて右解散命令に基く前記選擧の告示もまた當然無効のものである。よつて前記町會議員選擧は結局「選擧を行うべき場合」でないのにこれを行つた違法を免れないのであつて、この場合は地方自治法第六十七條の選擧の規定に違反し、しかもその違反が選擧の結果に異動を及ぼす場合に該當するものといわなければならない。よつて被告委員會のした前記裁決は不當であるから茲に右裁決の取消及び右石森町會議員選擧の無効確認を求めるため本訴提起に及んだ。

なお

一、昭和二十二年七月二十一日石森町農業會事務所で行はれた前記會合は秘密會ではない。何となれば石森町議會の會議規則においては秘密會を認めていないのである。假に右規則は秘密會を禁止したものではないとしても、秘密會は議長または議員三名以上の發議により出席議員の三分の二以上の多數で議決しなければこれを開くことができず、また議長において傍聽禁止若しくはこれを解く旨を宣言しなければならないのであるが(地方自治法第百十五條)、右七月二十一日の石森町議會においては右措置は採られなかつたのであるから秘密會を開いたものとはいわれない。

二、假に右石森町農業會事務所における會合が七月二十一日の町議會の秘密であるとしても、右秘密會において町長に對する不信任の議決をした事實はない。何となれば秘密會においては議案の審議をし得るに止り、議決をすることは會議公開の根本精神に反し明文を俟つまでもなく許されないのであるから、秘密會において町長に對する辭職勸告案の審議をしたとしても、その議決は公開の會議で議員數の三分の二以上が出席しその四分の三以上が同意して會議規則に従い嚴正に行わなければならない(同法第百七十八條)。また會議録には會議の次第及び出席議員の氏名の外議案の性質に鑑み、特に採決の經過及び結果を明確に記載しなければならないのである(同法第百二十三條)。しかるに前記秘密會においては右手續は採られなかつたのであるから何等議決をしたものではない。

三、尤も石森町役場備付の七月二十四日の同町議會會議録(甲第三號證の一、二)のうち甲第三號證の二の會議録には「議長本日の續會は七月二十一日の緊急動議案による秘密會の議決により云々」と記載してあるのであるが、同號證の一の會議録には右「議決云々」が「提案云々」と訂されているのであつて、これは初め「議決云々」と記載されてあつたのを議長首〓忠作において署名後間もなくその誤記であることを發見し、書記鈴木二郞に命じて「提案云々」と訂正させたものである。本來この訂正の分が七月二十四日の會議録の原本であるべきところ、鈴木書記は當時署名議員である森熊太郞及び高橋小一郞に對しこれに署名を求めることを怠り日時を經過するうち、裁判所から本件につき會議録の送付囑託を受けるに至つたので、鈴木書記は右訂正の分につき右森等の署名を求めたところ、兩名共訂正したものには署名しないといつて署名を拒絶たため、止むなく右訂正前と同一文言即ち「議決云々」と記載してある甲第三號證の二の會議録に署名を求め、その結果七月二十四日の會議録が二通あるような觀を呈するに至つたのである。けれども地方自治法第百二十三條には「議長は書記長(書記長をおかない市町村においては書記)をして会議録を調製し会議の次第及び出席議員の氏名を記載させなければならない」と規定してあるから、會議録作成の責任者が議長であることは明白である。従つて町長が書記に命じて會議録を作成させることは越權であつて、議長において署名後その誤記を發見してこれを訂正させたのは當然の措置といわなければならない。よつて前記甲第三號證の二の會議録に「秘密會の議決により云々」と記載されていても、これによつて秘密會の議決があつたものということはできない。

四、また町長において右秘密會が町長に對する不信任の議決をしたものと信じたとしても、右秘密會の成立及び議決は明かに法令及び會議規則に違反しているのであるから、理由を示してこれを再議に付さなければならないのである(同法第百七六條)。しかるに町長はこの方途にもでなかつたのであるから、右議決ありとして町議会の解散を命じたのは町長の獨斷に基く無効のものといわなければならない。」

被告訴訟代理人の答辯の趣旨は左の通りである。

「原告等の請求はこれを棄却する、訴訟費用は原告等の負擔とする、との判決を求める。」

またその答辯の事由は左の通りである。

「原告等が昭和二十二年九月一日施行の宮城縣登米郡石森町會議員選擧における選擧人であること、原告等が同年九月七日同町選擧管理委員會に對し右選擧の規定に違反する無効のものであることを理由として選擧の効力に關する異議を申立て、同年十月二日右異議の申立は相立たない旨の決定を受け同日決定書の送達を受け、更に同年十月十二日被告委員會に訴願したので、被告委員會において同年十二月一日訴願人等の申立は相立たない旨の裁決をし同月十日右裁決書を原告等に送達したこと並びに石森町長片倉正顯が、同年七月二十一日の石森町議會において同町長に對する不信任の議決をしたものとし同年七月三十日同町議會に對して解散を命じ、これに基いて同町選擧管理委員會は同年八月十日同町會議員の選擧を同年九月一日行う旨を告示し、その結果右選擧は前記のやうに同年九月一日施行され同月二日開票によつて三瓶龍二外二十一名が新に同町會議員に當選した旨決定されたことはいづれもこれを認める。

一、しかしながら選擧の効力に關する異議は地方自治法第六十七條により選擧の規定に違反する事由があるときに限りこれを主張し得るものであるところ、原告等の本訴請求は石森町長の町議會に對する解散命令の無効なことを理由とするものであつて、即ち選擧執行の事由についての違法を主張するものに過ぎないから、右解散命令自體の効力を爭うのは格別これをもつて選擧の規定に違反する場合として選擧の無効を主張し得るものではない、しかも右解散命令は權限、手續及び形式上一應有効なものである以上、これに基いて選擧の告示をし町會議員選擧を行わなければならないのであつて、これをもつて「選擧を行うべき場合」でないのに選擧を行つた違法があるものといわれない。よつて原告等の本訴請求はこの點において失當である。

二、更に原告等の主張事實中、石森町議員は昭和二十二年七月二十一日石森町役場において議員定數二十二名のうち十八名が出席して同年度歳入歳出豫算案を審議するための繼續定例議會を開いたが、同議會において議員金野五郞は同人外議員十二名の署名した町長に對する辭職勸告提案理由書に基いて石森町長片倉正顯に對する辭職勸告案を緊急動議として提出し議題となつたことはこれを認めるが、これについて原告等主張のように懇談が行われたに止り何等議決をするに至らなかつたものではなく、同日直に秘密會が開かれた結果同町長に對する不信任の議決がされたのである。即ち右町長に對する辭職勸告案はその提案理由書の趣旨からしても議題となつた點からしても町長片倉正顯に對する不信任案であることは明であるが、右町議會において、右辭職勸告案は町長の進退に關する議題であるから秘密會で審議することに全員異議なく決定したので、直に會議の場所を石森町農業會事務所に移し議長首〓忠作において提案理由書を書記鈴木二郞に朗讀させ議長副議長を加えて十五名の議員がこれに賛成である旨を明言の上審議に付した結果、全員異議なく右町長に對する不信任案を議決した。そして右議決を直に町長に通告すること及び同月二十四日の町議會で右議決に對する町長の回答を求めることを議長に一任する旨申合せて閉會したのである。尤も石森町會の會議規則に秘密會に關する規定のないことはこれを認めるが、これを禁止する規定もないのであるから秘密會を開くことに差支ないばかりでなく、會議手續は法令に違反しない限り假に會議規則によらなくても直に無効となるものではない。次いで同月二十四日の町議會は議員十六名が出席して開かれたが、劈頭議長首〓忠作は前記二十一日の秘密會の議決による辭職勸告案に對する町長の回答を求める旨を宣し改めて提案理由書を朗讀させてその回答を求めたのに對し、町長片倉正顯は辭職勸告に應ずることができない旨を述べるや議長は直に閉會を宣したのである。右の次第であつて若し七月二十一日に町長に對する辭職勸告の議決をしたことなく單に懇談したに過ぎないならば、右町長の辭職勸告拒絶の回答に對し更に協議するのが當然であつて、右經過に見るも右議決のあつた事實は疑ない。よつて原告等の請求はこの點において失當である。」

(立證省略)

理由

原告等が昭和二十二年九月一日施行の宮城縣登米郡石森町會議員選擧における選擧人であること、原告等が同年九月七日同町選擧管理委員會に對し右選擧が選擧の規定に違反する無効のものであることを理由として選擧の効力に關する異議を申立て、同年十月二日右異議の申立は相立たない旨の決定を受け同日決定書の送達を受け、更に同年十月十二日被告委員會に訴願したので、被告委員會において同年十二月一日訴願人等の申立は相立たない旨の裁決をし同年同月十日右裁決書を原告等に送達したこと並びに石森町長片倉正顯が同年七月二十一日の石森町議會において同町長に對する不信任の議決をしたものとし、同年七月三十日同町議會に對して解散を命じ、これに基いて同町選擧管理委員會は同年八月十日同町會議員の選擧を同年九月一日行う旨を告示し、その結果右選擧は前記のように同年九月一日施行され同月二日開票によつて三瓶龍二外二十一名が新に同町會議員に當選した旨決定されたことは、いづれも當事者間に爭がない。

被告は、原告等の本訴請求は石森町長の同町議會に對する解散命令の無効なことを理由とするものであつて即ち選擧執行の事由についての違法を主張するものに過ぎないからこれをもつて選擧の規定に違反する場合として選擧の無効を主張し得るものではない。しかも右解散命令は權限、手續及び形式上一應有効なものである以上これに基いて選擧の告示をし町會議員選擧を行わなければならないのであるから、選擧を行うべき場合でないのにこれを行つた違法があるものとはいわれない旨主張する。

よつて先づこの點について審案するに、地方自治法第六十七條の規定によると、選擧の全部または一部の無効を主張するには選擧の規定に違反する事由があつてしかもその違反が選擧の結果に影響を及ぼす虞がある場合でなければならないことが明である。しかるところ原告等の主張は、石森町長の同町議會に對する解散命令の無効なことを前提とするものであることは被告主張の通りであるけれども、原告等主張の全體の趣旨に徴すると、結局右解散命令が無効である結果これに基く選擧の告示が無効であり、従つて選擧を行うべき場合でないのにこれを行つた違法のあることを主張するものであることは疑を容れない。このような選擧の告示または選擧を行うべき場合の違法は即ち選擧管理の任にある行政機關がその選擧の管理執行に關する規定に違反する場合であつて、右法條にいう選擧の規定に違反するときに該當するものであるといわなければならない。しかも右解散命令は一の行政處分であるからこれに關する能力的規定即ちかゝる處分を認容する法令上の規定によるのでなければ許されないのであつて、これに違反する場合はその取消を俟つまでもなく無効に歸すものと解する。従つて右解散命令はたとえ町長の權限に基いてされたものであつても右規定によるものでない限り直にこれを一應有効なものとし、従つてこれに基く爾後の手續もまた有効なものということはできないのである。以上説明の通りであるから右原告等の主張について被告主張のようにそれ自體失當なものということはできない。よつてこの點に關する被告の右主張は採用することができないものである。

そこで更に原告等の主張事實について案ずるに、石森町議會は昭和二十二年七月二十一日石森町役場において議員定數二十二名のうち十八名が出席して同年度歳出歳入豫算案を審議するための繼續定例議會を開いたが、同議會において、議員金野五郞は同人外議員十二名の署名した町長に對する辭職勸告提案理由書に基いて石森町長片倉正顯に對する辭職勸告案を緊急動議として提出し議題となつたことは當事者間に爭がない。しかるところ原告等は、右議案については町長の一身上の問題であるから傍聽者のいないところで懇談することゝなつたのであつて、これについて同町長に對する不信任の議決がされたことはない旨主張し、これに對し被告は秘密會において同町長に對する不信任の議決がされるに至つたものである旨主張するから、審案するに、成立に爭のない甲第一、二號證、第三號證の一、二(但し、原告等は同號證の二は會議録の原本ではない旨主張している)、第五號證、議長首〓忠作の署名部分の成立に爭がないから同人作成名義部分の成立を推定することができその餘の部分は證人鈴木二郞、田淵政一、門馬幸治の各證言を綜合して成立を認める乙第一號證(但し原告等は同號證が甲第二號證と同時に鐵筆で作成されたことは爭わないが會議録であることは認めていない)、議長首〓忠作の署名部分の成立に爭がないから同人作成名義部分の成立を推定することができその餘の部分は證人鈴木二郞、森熊太郞、高橋小一郞の各證言を綜合して成立を認める乙第二號證(但し原告等は同號證が甲第三號證の一と同時に鐵筆で作成されたことは爭はないが會議録であることは認めていない)、證人及川忠一郞、千葉淸照、森熊太郞、高橋小一郞、田淵政一、白石安男、伊〓政夫、片倉正顯の各證言、鈴木二郞、三瓶龍二、千葉達也、千葉恭三郞、門馬幸治、千葉繁雄、境治郞、佐〓誠治、後〓高喜、千葉熊次郞、大坂京三、金野五郞、首〓忠作、千葉胤夫の各證言の一部を綜合すると次の事實が認められる。一、石森町議會は昭和二十二年度歳出歳入豫算案の審議が容易に決せず同年七月二十一日もその審議のため前記のように繼續の會議を開いたのであるが、當日出席した議員は白石安男、首〓忠作(議長)、千葉恭三郞、千葉達也、千葉淸照、三瓶龍二、及川忠一郞、伊〓政夫、田淵政一、門馬幸治、千葉胤夫、千葉繁雄、金野五郞、境治郞、千葉熊次郞、佐〓誠治、後〓高喜、大坂京三の十八名で、缺席した議員は石川吉雄、千葉文夫、高橋小一郞、森熊太郞の四名であること、右會議において町長片倉正顯は議長首〓忠作から右豫算に關する修正案の説明を求められ、その説明をしたのに對し賛否兩論對立し、議場は相當緊迫していた折柄、議員金野五郞は休憩を提議し全員異議がなかつたので、議長において休憩を宣したが、議長において再び開會を宣するや議員金野五郞は前記のように町長の進退問題に關する緊急動議案を提出したこと、二、その際議員大坂京三は町長の進退問題に關する緊急動議案であるから秘密會にしては如何と述べ、これに對し一人の異議を述べるものもなく、議長において全員異議なきものとして採決の結果直に會議の場所を石森町農業會事務所樓上に移して秘密會を開くことゝしたこと、三、右秘密會には議長首〓忠作その他前記出席議員の外石森町書記鈴木二郞が出席し町長片倉正顯はこれに出席しないで開かれたが、先づ議長は右緊急動議案を附議する旨を告げ、提案者から議長の手元に提出された右動議案の提案理由を記載してある「町長に對する辭職勸告書」と題する提案理由書(甲第一號證)を書記鈴木二郞に朗讀させたこと、右提案理由書はかねて議員金野五郞が文案を作成したもので、その内容は町長に協力する餘地はないからその辭職を勸告する趣旨を記載し、議員三瓶龍二、境治郞、千葉熊次郞、及川忠一郞、佐〓誠治、石川吉雄、後〓高喜、門馬幸治、千葉恭三郞、大坂京三、千葉繁雄、千葉達也、金野五郞の十三名の署名捺印した同日附議長宛のものであつて、要するに町長片倉正顯に對する不信任を表明しその辭職を勸告したものに外ならないこと、四、右提案理由書の朗讀後、議長首〓忠作は右動議案に對し同議長及び副議長千葉胤夫も賛成である旨を述べたので、その賛成者は右書面に署名した議員のうち當日缺席した石川吉雄を除く十二名並びに議長及び副議長合計十四名となり當日の出席議員十八名中四分の三以上を占めたこと、大體議員定員二十二名のうちかねてから町長に反對していた者は十五名と目されていたが、そのうち右石川吉雄を除く全員が當日出席していたのに反し、町長を支持する者七名のうち當日は三名が缺席し、僅に白石安雄外三名が出席していたに過ぎなかつたので、右白石等は右動議案に反對してももはや大勢を動かし得ないものと觀念し、何等の異議も述べなかつたこと、そこで議長は右動議案は全員異議なく議決されたものとし、なお右議決の趣旨を町長に通達する手續は議長に一任されたので、議長において右提案理由書を後刻町長に示してその回答を求めることゝし、更にその回答期日について諮つたところ、議員金野五郞はその期日を七月二十四日にしては如何と述べ、全員これに異議がなかつたので、議長は七月二十四日に會議を繼續して右回答を求めることゝし、秘密會を閉ぢて再び前議場において會議を再會したが、議長から繼續議會を右七月二十四日に開くことにする旨を告げただけで午後六時三十分散會するに至つたこと、そこで議長首〓忠作は直に右町長に對する辭職勸告の提案理由書を町長片倉正顯に示し同月二十四日の繼續議會において町長の回答を求めることゝなつた旨告げたこと、五、次いで同月二十四日の繼續議會は議員十六名(但し前回の缺席議員四名は全部出席した)が出席して開かれたが、先ず議長は本日の續會においては七月二十一日の緊急動議案による秘密會の議決により町長に對する辭職勸告について町長の回答を求める旨を告げたところ、これに對し町長片倉正顯は多數町民により公選された者として一個人の考だけで進退を決することができないから右辭職勸告には應じ難い旨を述べ右勸告を拒絶したので、議長は直に閉會を宣したこと。以上認定の事實に徴すると、石森町長片倉正顯に對する前記辭職勸告案は同町長に對する不信任案に外ならないことが明であつて、會議及び表決の手續等において多少明確を缺く憾みを免れないとしても、前記七月二十一日の石森町議會において秘密會により同町長片倉正顯に對する不信任の議決をしたものと解するのが相當である。

前記證人鈴木一郞、三瓶龍二、千葉達也、千葉恭三部、門馬幸治、千葉繁雄、境治郞、佐〓誠治、後〓高喜、千葉熊次郞、大坂京三、金野五郞、首〓忠作、千葉胤夫の各證言中右認定に反する部分は採用し離く、證人三瓶龍二の證言により成立を認め得る甲第四號證は三瓶龍二の署名捺印の成立に爭がないから同人の作成したものと推定できる乙第三號證と對比してもこれを採用し難く、他に右認定を左右するに足る證據はない(なお前記甲第二號證、第三號證の一、二、乙第一、二號證の作成された事情については後記認定を參照)。

尤も、原告等主張一の點について案ずるに、石森町議會の會議規則に秘密會に關する規定のないことは被告の認めるところである。

けれども地方自治法第百十五條によると、普通地方公共團體の議會の會議は公開するのが原則であるけれども、秘密會を開くことも認められているのであつて、前記甲第五號證(石森町會會議規則)によるも右會議規則において特に秘密會を禁止した趣旨は認められない。また右法條によると秘密會は議長または議員三名以上の發議により出席議員の三分の二以上の多數で議決したときにこれを開くことができる旨定めてあつて、また原告主張のように議長においてこれに伴う公開停止に關する宣言その他の措置を採らなければならないことはいうまでもないけれども、これらの手續は要するに秘密會が議事公開の原則に對する制限であることに鑑み、特にこれを開く場合に愼重を期する趣旨に出でたものであつて、この趣旨を没却する程度に至らない限り、その手續に多少缺けるところがあつても直に秘密會が成立しないものまたは無効なものということはできない。前記七月二十一日の石森町議會では議員大坂京三において秘密會を開くことを發言したのであるが、これに對して一人の異議を述べるものもなかつたので議長において全員異議なきものとして採決の結果直に會議の場所を移して秘密會を開くことゝしたものであること前記認定の通りであつて、その手續に多少缺けるところがある憾みを免れないとしても、未だこれをもつて右秘密會が成立しないものまたは無効なものとするに足りない。よつてこの點に關する原告等の主張は採用することができない。

次に原告等主張二の點について案ずるに、秘密會において議案の審議を盡した以上その議決は公開の會議において嚴正に行うのが會議の本來であると解されるけれども、議案により秘密會において審議の上更に議決を行うに至つたとしてもこれについて議員に異議がなくまたその結果が公開の會議において明にされている以上、公開の會議において議決するのでない限り秘密會の議決が成立しないものまたは無効なものということはできない。前記七月二十一日の秘密會では町長に對する辭職勸告案につき議員十四名が賛成であることが明にされたばかりでなく一人の異議を述べるものもなかつたので議長において全員異議なく議決したものとし、またその議決の定足數に缺けるところがなかつたこと及び次の七月二十四の公開の會議において議長は右秘密會の議決の結果を明にしているものであること前記認定の通りであつて、右議決の手續に多少明確を缺く憾みを免れないとしても未だこれをもつて右秘密會において議決が成立しないものまたは無効なものということはできない。また地方自治法第百二十三條第一項によると、議長は書記長(書記長をおかない市町村においては書記)をして會議録を調製し會議の次第及び出席議員の氏名を記載させなければならない旨定めてあつて、また議案により原告等主張のように特に裁決の經過及び結果を明確に記載させるのが相當であることはいうまでもないけれども、會議録に多少不備があり記載明確を缺くものがあつても、これがため事實上行われた會議の結果を左右し得るものではない。前記七月二十一日及び七月二十四日の石森町議會の會議録の調製については後記認定の通りであつて、また前記甲第二號證及び第三號證の一によると右會議録の記載は必ずしも明確なものといわれないけれども、同日これらの會議が開かれまたその秘密會において町長に對する辭職勸告の議決があつたことは前記認定の通りであるから、右會議録の不備若しくは不明確な點があるからといつて前記のような認定をなし得ないものではない。よつてこの點に關する原告等の主張は採用することができない。

次に原告等主張三の點について案ずるに、地方自治法第百二十三條第一項によると議長は書記をして會議録を調製させなければならないことは前記の通りであるが、石森町議會の會議録について考察するに、前記甲第二號證、第三號證の一、二、乙第一、二號證、前記證人鈴木二郞、田淵政一、門馬幸治、森熊太郞、高橋小一郞、片倉正顯、首〓忠作の各證言を綜合すると次の事實が認められる。(イ)石森町議會の會議録は議長首〓忠作の命により書記鈴木二郞が調製することになつていたが、右鈴木二郞は昭和二十二年七月二十八日、前記七月二十一日の會議録として甲第二號證を、その縣地方事務所に送付する分として乙第一號證を、七月二十四日の會議録として甲第三號證の一(但し同號證中「議決云々」とある部分を「提案云々」と訂正する前のもの)を、その縣地方事務所に送付する分として乙第二號證を、七月二十一日の分と七月二十四日の分とそれぞれ同時に鐵筆で作成し、いずれも議長首〓忠作に示してその署名を得たこと、そして右縣地方事務所に送付する乙第一、二號證については鈴木二郞においてこの分についても署名議員等の署名を求めるつもりであつところ、當時これを至急に送付しなければならなかつたため右署名を得られなかつたので、右乙第一號證の署名議員田淵政一、門馬幸治の署名、右乙第二號證の署名議員森熊太郞、高橋小一郞の署名はいずれも鈴木二郞において代筆したこと、(ロ)右七月二十一日の會議録である甲第二號證の署名議員の署名については田淵政一の分は後に同人の署名を得また門馬幸治の分は同人の承諾を得て鈴木二郞において代筆したこと、(ハ)右七月二十四日の會議録である甲第三號證の一については、これと同時に鐵筆で書かれた前記乙第二號證を縣地方事務所に送付した後に至つて、議長首〓忠作から「議決云々」とある部分を「提案云々」と訂正するように求められ、鈴木二郞において右指示に基きこれを訂正したこと、そのため後に鈴木二郞において署名議員である森熊太郞、高橋小一郞の兩名にその署名を求めたところ同人等からこれを拒絶されたので、鈴木二郞は止むなく右訂正前と同一文言のもの即ち「議決云々」と記載した甲第三號證の二を別に作成してこれに同人等の署名を得たこと。右認定事實に徴すると、七月二十一日の會議録の原本は甲第二號證七月二十四日の會議録の原本は甲第三號證の一であることが認められる。けれども右甲第三號證の一中「議決云々」を「提案云々」と訂正した事情は右の通りであつて、右訂正があるからといつてそのまゝ直にその記載通りの事實を認定しなければならないものではないこと勿論である。よつてこの點に關する原告等の主張は前記認定を左右するに足るものではない。

次に原告等主張四の事實について案ずるに、地方自治法第百七十六條によると、普通地方公共團體の議會の議決が法令若くは會議規則に違反すると認めるときはその長は理由を示してこれを再議に付さなければならない旨定めてあるが、前記七月二十一日の秘密會の成立及び議決については前記認定の通りであつて必ずしも右のような瑕疵あるものとしなければならないものではないばかりでなく、町長において右瑕疵あるものと認めていたものであることを認定するに足る證據はない。よつてこの點に關する原告等の主張も採用するに足りない。

以上説明の通りであるから、石森町議會において町長片倉正顯に對する不信任の議決をした事實がなく、従つて同町長の右議會に對する解散命令は無効である旨の原告等の主張はこれを容れることができないのである。從つて右の主張を前提として前記裁決の取消及び本件選擧の無効確認を求める原告等の本訴請求は、他の爭點について判斷するまでもなく失當といわなければならない。尤も被告委員會が昭和二十二年十二月一日原告等の訴願に對してした裁決はその理由において以上説明したところと異るけれども、結論において同趣旨に歸するからこれを取消すべき限りではない。よつて原告等の本訴請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負擔につき民事訴訟法第九十五條、第九十三條、第八十九條を適用して主文の通り判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例